App Store Connectのcampaign linksについて、その詳細な設定方法から活用事例、MMPとの比較まで網羅的に解説します。iOSアプリのマーケティング担当者やアプリ開発者にとって、アプリのインストール経路を把握することは、効果的なプロモーション施策を打つために不可欠です。しかし、AdjustやAppsFlyerといった高機能なMMP(モバイル計測プラットフォーム)は、導入コストや運用負荷の面でハードルが高いと感じている方もいるのではないでしょうか。この記事では、無料で利用でき、設定も簡単なApp Store Connectのcampaign linksを活用することで、MMPを使わずにiOSアプリの流入経路を分析する方法を分かりやすく説明します。これを読めば、どの広告キャンペーンやWebサイト、SNSからの流入が多いのかを把握し、費用対効果の高いマーケティング戦略を立てることができるようになります。具体的な設定手順やデータの見方、活用事例も紹介しているので、すぐに実践に移すことが可能です。さらに、campaign linksとMMPとの比較を通して、それぞれのメリット・デメリットを理解し、自社のアプリに最適な計測方法を選択するための判断材料も提供します。
1. campaign linksとは
campaign linksは、Appleが提供するApp Store Connectの機能の一つで、iOSアプリへのインストールやアプリ内イベントの発生元をトラッキングするための無料ツールです。アプリのダウンロードや特定のアクションがどの広告キャンペーン、ウェブサイト、メールマガジンなどから発生したのかを分析することができます。 複雑な設定やSDKの導入は不要で、URLに特定のパラメータを付与するだけで手軽に利用できます。
1.1 campaign linksでできること
campaign linksを利用することで、以下のようなことが可能になります。
- インストール数の計測:どのキャンペーンからどれだけのインストールが発生したかを把握できます。
- アプリ内イベントの計測:アプリ内での特定のアクション(商品購入、会員登録など)をキャンペーンごとにトラッキングできます。
- 広告効果の測定:キャンペーンごとの費用対効果を分析し、最適な広告戦略を立てることができます。
- ユーザー行動の分析:どのキャンペーン経由で獲得したユーザーがアプリ内でどのような行動をとっているのかを分析できます。
- A/Bテストの実施:異なるキャンペーンのパフォーマンスを比較し、効果的なクリエイティブやターゲティングを特定できます。
1.2 campaign linksを使うメリット
campaign linksには、次のようなメリットがあります。
1.2.1 MMPを使わずに計測できる
Mobile Measurement Partner(MMP)のような外部ツールを導入せずに、iOSアプリの流入経路を分析できます。MMPは高額な費用がかかる場合もあるため、campaign linksを利用することでコストを削減できます。また、自社でデータを管理できるため、より詳細な分析が可能です。
1.2.2 無料で利用できる
campaign linksはApp Store Connectの標準機能として無料で利用できます。追加費用なしでiOSアプリのマーケティング分析基盤を構築できます。
1.2.3 設定が簡単
複雑な設定やSDKの導入は不要です。App Store Connectでキャンペーンを作成し、URLにパラメータを付与するだけでトラッキングを開始できます。手軽に導入できるため、すぐに効果測定を始められます。技術的な知識がなくても、簡単に利用できます。
メリット | 詳細 |
---|---|
MMP不要 | 高額なMMPを利用せずに計測可能 |
無料 | App Store Connectの標準機能として無料提供 |
設定が簡単 | SDK不要、App Store Connectで設定、URLにパラメータ付与のみ |
2. campaign linksの設定方法
campaign linksを設定するには、App Store Connectでキャンペーンを作成し、計測したいリンクにパラメータを付与する必要があります。具体的な手順は以下のとおりです。
2.1 App Store Connectでのキャンペーン作成
まず、App Store Connectにログインし、キャンペーンを作成します。キャンペーンの作成は、”App Analytics” – “Acquisition” – “Campaigns” から行います。以下の項目を設定します。
2.1.1 キャンペーン名の設定
キャンペーン名は、後から分析しやすいように、具体的な名称をつけましょう。例えば、”2024年1月_Twitter広告_新規ユーザー獲得キャンペーン” などが考えられます。キャンペーン名は後から変更できないため、慎重に設定しましょう。
2.1.2 メディアソースの設定
メディアソースは、アプリのインストールやイベントが発生したメディアを選択します。例えば、”Twitter”、”Facebook”、”LINE”、”メールマガジン”、”Webサイトバナー” などが挙げられます。正確なメディアソースを選択することで、効果的な分析が可能になります。プリセットで用意されていないものはカスタムで設定できます。
2.1.3 キャンペーンIDの設定
キャンペーンIDは、自動的に生成されます。このIDは、URLパラメータに付与されるため、変更できません。キャンペーンIDは、各キャンペーンを一意に識別するための重要な情報です。
2.2 リンクの作成
App Store Connectでキャンペーンを作成したら、計測したいリンクにcampaign linksパラメータを付与します。付与するパラメータは、以下のとおりです。
2.2.1 計測したいリンクへのcampaign linksパラメータの付与
計測したいリンクは、アプリのApp StoreページのURLです。このURLに、以下のパラメータを付与します。
パラメータ | 説明 | 必須 |
---|---|---|
pt | プロバイダトークン。App Store Connectで自動的に生成されるキャンペーンIDを指定します。 | 必須 |
ct | キャンペーントークン。キャンペーン名を指定します。URLエンコードが必要です。 | 必須 |
mt | メディアソーストークン。メディアソースを指定します。URLエンコードが必要です。 | 必須 |
cid | キャンペーンID。pt , ct , mt を組み合わせた文字列を指定することもできます。その場合は、pt , ct , mt パラメータは不要です。 | pt , ct , mt を使用しない場合は必須 |
例えば、アプリのApp StoreページのURLが https://apps.apple.com/jp/app/example/id1234567890
で、キャンペーンIDが abcdefg12345
の場合、campaign linksが付与されたURLは次のようになります。
2.2.2 付与できるパラメータの種類
上記で説明したpt
, ct
, mt
, cid
以外にも、at
パラメータを利用することで、アトリビューショントークンを指定することができます。これにより、SKAdNetworkとcampaign linksを併用した計測が可能になります。アトリビューション計測を活用することで、より詳細な分析が可能になります。
また、これらのパラメータは、URLエンコードする必要がある点に注意が必要です。URLエンコードとは、URLで使用できない文字を特別な形式に変換する処理のことです。例えば、日本語の文字やスペースなどはURLエンコードする必要があります。
3. campaign linksを使ったiOSアプリの流入経路分析
campaign linksを設定することで、App Store ConnectでiOSアプリへの流入経路を分析することができます。この章では、App Store Connectでのデータ確認方法や主要指標の見方、そしてcampaign linksとMMP(モバイル計測プラットフォーム、例:AdjustやAppsFlyer)との比較について解説します。
3.1 App Store Connectでのデータ確認
App Store Connectでは、App Analyticsを使ってキャンペーン別のデータを確認できます。 App Analyticsは、アプリのパフォーマンスを様々な角度から分析できる強力なツールです。campaign linksで取得したデータもこのApp Analyticsに集約され、他の指標と合わせて分析することが可能です。
3.1.1 App Analyticsでのキャンペーン別データの確認方法
App Analyticsを開き、「獲得」セクションを選択。「キャンペーン」タブをクリックすると、設定したキャンペーンごとのデータが表示されます。キャンペーン名をクリックすると、さらに詳細なデータを確認できます。
3.1.2 主要指標の見方
App Analyticsでは、様々な指標を確認できます。campaign linksを活用する上で特に重要な指標は以下の通りです。
指標 | 説明 |
---|---|
インプレッション数 | キャンペーンリンクが表示された回数です。 |
タップ数 | キャンペーンリンクがタップされた回数です。 |
ダウンロード数 | キャンペーン経由でアプリがダウンロードされた回数です。 |
コンバージョン率 | インプレッション数に対するダウンロード数の割合です。キャンペーンの効果を測る上で重要な指標です。 |
アクティブユーザー数 | キャンペーン経由でアプリをインストールしたユーザーのうち、実際にアプリを起動したユーザーの数です。 |
平均収益 | キャンペーン経由でアプリをインストールしたユーザー1人あたりの平均収益です。 |
維持率 | キャンペーン経由でアプリをインストールしたユーザーのうち、一定期間後にアプリを継続して利用しているユーザーの割合です。 |
これらの指標を分析することで、どのキャンペーンが効果的だったかを判断し、今後のキャンペーン戦略に活かすことができます。たとえば、コンバージョン率が高いキャンペーンは、ユーザーのニーズに合致した効果的なクリエイティブを使用している可能性があります。逆に、コンバージョン率が低いキャンペーンは、ターゲット設定やクリエイティブの見直しが必要かもしれません。
3.2 campaign linksとMMP(AdjustやAppsFlyer)との比較
アプリのマーケティングにおいて、流入経路の分析は非常に重要です。campaign linksはAppleが提供する無料のツールですが、有料のMMP(モバイル計測プラットフォーム)と比較して、どのような違いがあるのでしょうか。以下で詳しく見ていきましょう。
3.2.1 計測できる指標の違い
campaign linksでは、主にApp Store Connect上でのインストール数やコンバージョン率などの基本的な指標を計測できます。 一方で、AdjustやAppsFlyerなどのMMPは、より詳細な指標を計測することができます。例えば、アプリ内イベント、リテンションレート、LTV(顧客生涯価値)、ROAS(広告費用対効果)、コホート分析など、アプリの成長を分析するための高度な指標を提供しています。 また、不正インストールの検知といった機能も備えています。
機能 | campaign links | MMP (Adjust, AppsFlyerなど) |
---|---|---|
インストール数の計測 | 可能 | 可能 |
コンバージョン率の計測 | 可能 | 可能 |
アプリ内イベントの計測 | 不可 | 可能 |
リテンションレートの計測 | 限定的 | 可能 |
LTVの計測 | 不可 | 可能 |
ROASの計測 | 不可 | 可能 |
コホート分析 | 不可 | 可能 |
不正インストールの検知 | 不可 | 可能 |
3.2.2 費用対効果の比較
campaign linksは無料で利用できるため、コストを抑えたい場合に適しています。 一方で、MMPは有料ですが、より詳細なデータ分析が可能で、高度なマーケティング施策を実施したい場合に有効です。アプリの規模やマーケティング予算、分析ニーズに合わせて最適なツールを選択することが重要です。小規模なアプリや、初期段階のマーケティングにおいては、campaign linksで十分な分析ができる場合も多いでしょう。しかし、アプリが成長し、より詳細なデータ分析が必要になった場合は、MMPの導入を検討する価値があります。 また、複数の広告プラットフォームを利用する場合、MMPはアトリビューション分析を正確に行う上で非常に役立ちます。
4. campaign links活用事例
campaign linksは、iOSアプリへの様々な流入経路を分析し、効果的なマーケティング施策を実現するために活用できます。ここでは、具体的な活用事例をいくつか紹介します。
4.1 キャンペーンの効果測定
campaign linksを活用することで、各キャンペーンの効果を正確に測定できます。例えば、Twitter、Facebook、Instagram、LINEなどの異なるソーシャルメディアでキャンペーンを実施する場合、それぞれのメディアソースごとにキャンペーンリンクを作成します。これにより、どのメディアからの流入が最もアプリのインストールやコンバージョンにつながっているかを把握し、費用対効果の高いメディアに予算を集中させることができます。
4.1.1 キャンペーン別コンバージョン率の比較
例えば、アプリ内課金への導線を複数用意している場合、それぞれの導線に異なるキャンペーンリンクを設定することで、どの導線が最も効果的かを分析できます。下記の例では、プッシュ通知、アプリ内バナー、メールマガジンのそれぞれのキャンペーンリンクを設定し、コンバージョン率を比較しています。
メディアソース | クリック数 | コンバージョン数 | コンバージョン率 |
---|---|---|---|
プッシュ通知 | 1000 | 50 | 5% |
アプリ内バナー | 500 | 30 | 6% |
メールマガジン | 200 | 10 | 5% |
この結果から、アプリ内バナーからのコンバージョン率が最も高いことがわかります。この情報に基づいて、アプリ内バナーのデザインや表示頻度を最適化することで、さらにコンバージョン率を向上させることができます。
4.2 A/Bテストの実施
campaign linksはA/Bテストの実施にも役立ちます。例えば、アプリのインストールを促す広告バナーを2種類作成し、それぞれに異なるキャンペーンリンクを設定します。その後、各バナーのクリック数やインストール数を比較することで、どちらのバナーがより効果的かを判断できます。A/Bテストは、バナーのデザインだけでなく、広告の配信ターゲットや広告文など、様々な要素で実施可能です。
4.2.1 A/Bテストによる広告クリエイティブの最適化
例えば、異なるクリエイティブの広告バナーAとBを用意し、それぞれに異なるキャンペーンリンクを設定して配信した場合、下記のような結果が得られたとします。
バナー | インプレッション数 | クリック数 | CTR | インストール数 | CVR |
---|---|---|---|---|---|
A | 10000 | 500 | 5% | 100 | 20% |
B | 10000 | 600 | 6% | 150 | 25% |
この結果から、バナーBの方がCTR、CVRともに高く、より効果的なクリエイティブであることがわかります。このように、campaign linksを活用することで、データに基づいたクリエイティブ最適化が可能になります。
4.3 インフルエンサーマーケティングの効果測定
複数のインフルエンサーにアプリのプロモーションを依頼する場合、それぞれのインフルエンサーに専用のキャンペーンリンクを発行することで、どのインフルエンサーからの流入が最も効果的かを測定できます。これにより、今後のインフルエンサー選定や報酬の決定に役立てることができます。また、インフルエンサーごとに異なるキャンペーン内容を実施する場合にも、効果測定が容易になります。
これらの活用事例以外にも、campaign linksは様々なマーケティング施策に応用できます。自社のマーケティング目標に合わせて、柔軟に活用方法を検討してみてください。
5. よくある質問
campaign linksに関するよくある質問をまとめました。
5.1 campaign linksで計測できないデータは?
campaign linksは便利なツールですが、万能ではありません。計測できないデータも存在します。主なものとしては以下が挙げられます。
- アプリ内イベント:アプリインストール後のイベント(例:商品購入、レベルアップなど)は計測できません。
- ユーザー属性:年齢、性別、地域などのユーザー属性情報は取得できません。
- リターゲティング:campaign linksで取得したデータを基にしたリターゲティング広告は実施できません。
- アンインストール:アプリのアンインストール数は計測できません。
- 他社アプリへの遷移:自社アプリから他社アプリへの遷移は計測できません。
これらのデータを計測したい場合は、AdjustやAppsFlyerなどのMMP(モバイル計測プラットフォーム)の導入を検討する必要があります。MMPはcampaign linksよりも詳細なデータを取得できるため、アプリマーケティングをより効果的に行うことができます。
5.2 Androidアプリの計測はできる?
campaign linksはiOSアプリ専用の機能です。Androidアプリの計測には使用できません。Androidアプリの計測には、Google Play Consoleで提供されているトラッキングURLや、Adjust、AppsFlyerなどのMMPを利用する必要があります。
iOSとAndroidの両方のアプリを配信している場合は、それぞれ適切な計測ツールを使い分ける必要があります。以下にまとめました。
プラットフォーム | 計測ツール |
---|---|
iOS | campaign links、Adjust、AppsFlyerなど |
Android | Google Play ConsoleのトラッキングURL、Adjust、AppsFlyerなど |
プラットフォームごとに適切なツールを選択することで、正確なデータに基づいたアプリマーケティング施策を実施できます。
5.3 campaign linksとWebサイトへの流入計測はできる?
campaign linksはApp Storeへのリンクに付与して利用するものです。Webサイトへの流入計測には使用できません。Webサイトへの流入計測には、Google AnalyticsのUTMパラメータを利用するのが一般的です。UTMパラメータを使用することで、流入元、メディア、キャンペーン名などを識別し、Webサイトへのトラフィックを分析することができます。
5.4 計測結果を確認できるまでの時間
campaign links経由でのインストール数は、App Store Connectで確認できます。ただし、データが反映されるまでにはタイムラグがあります。一般的に、数時間から最大で24時間程度かかる場合があります。リアルタイムでデータを確認したい場合は、MMPの導入を検討してください。
5.5 複数のキャンペーンリンクを付与した場合の挙動
1つのリンクに複数のcampaign linksを付与した場合、最後に付与されたcampaign linksが有効になります。そのため、複数のキャンペーンを同時に計測したい場合は、それぞれ異なるリンクを作成する必要があります。誤って重複して付与しないように注意しましょう。
5.6 キャンペーンリンクの文字数制限
campaign linksのURLには文字数制限があります。URL全体で2,000文字以内に収める必要があります。制限を超えると、リンクが正しく機能しない可能性があります。パラメータを付与する際は、文字数に注意しましょう。
6. まとめ
この記事では、App Store Connectのcampaign linksについて、その概要から設定方法、データ分析、活用事例までを解説しました。campaign linksを利用することで、MMP(モバイル計測プラットフォーム)のような外部ツールを使わずに、iOSアプリへの流入経路を無料で簡単に分析できます。 キャンペーン名、メディアソース、キャンペーンIDを設定し、計測したいリンクにパラメータを付与するだけで、App Store Connect上でインストール数やコンバージョンなどの主要指標を確認できます。
AdjustやAppsFlyerといったMMPと比較すると、計測できる指標は限定的ですが、費用をかけずに手軽に始めることができる点が大きなメリットです。 特に、小規模アプリの開発者や、マーケティング予算が限られている場合に有効なツールと言えるでしょう。 キャンペーンの効果測定やA/Bテストなど、様々な用途で活用することで、アプリの成長に繋げることが可能です。 Androidアプリの計測には対応していないため、Androidアプリの場合はFirebaseなどのツールを利用する必要があります。